レーザーなど干渉性の良い光を2つに分け、一方を物体に当て、そこから反射してきた光(物体光)と、もう一方の光(参照光)を重ね合わせると、光の干渉という現象が生じます。
このときに生じる干渉縞を光と相互作用する記録媒体に記録したものがホログラムで、このようにホログラムを記録する技術をホログラフィーといいます。
このホログラム(干渉縞)に記録したときと同じ参照光を当てると、干渉縞で光が回折して信号光が再生(再生光)されます。この再生光は、物体光と同じ光であるため、ホログラムを通して記録した物体の三次元像を見ることができます。
このホログラフィの原理を利用して、信号(データ)を記録・再生するのがホログラムメモリです。
ホログラムの記録方式には大きく分けて、信号光と参照光を異なる角度で照射する二光束干渉方式(上図左)と、信号光と参照光を同軸に配置して、レンズで集光しながら干渉させるコリニア干渉方式(上図右)の2つの方式があります。
ホログラムでは、参照光を当てる角度などの条件が少しでもずれると元の像が再生されません。これを利用すると、記録媒体の同じ場所にいくつものデータを重ねて記録することができます(多重記録)。これによりDVDやBlu-Rayなどと同じ大きさのディスクに1TB以上の大容量のデータが記録できます。
またQRコードのような2次元データを一度に記録・再生できるため、データを1つずつ記録・読み出しするハードディスクやBlu-Rayなどと比べて、大容量のデータも高速に記録・再生することができます。
スピン・エレクトロニクスグループでは、これまでホログラムメモリの研究を行ってきており、2005年にはコリニア記録再生方式を用いて、ホログラムメモリドライブのプロトタイプを作製する等、実用に値する成果を得てきました。このときには記録材料に感光材料の一種であるフォトポリマを用いましたが、ライトワンスで書き換えができないものでした。そこで書き換え可能なホログラム記録材料として、 磁性材料を用いた磁気ホログラムがあります。私たちのグループでは磁気ホログラムの記録媒体として 長期安定性に優れた磁性酸化物を用いています。この透光性のある酸化物である磁性ガーネット膜に、 世界で初めて磁気ホログラムの書き込み再生ができることを実験で示し[1]、書き換え可能な磁気ホログラムメモリの実現を目指して研究を行っています。
スピン・エレクトロニクスグループでは体積的にホログラムが記録できる、透光性のある磁性ガーネット系材料(Bi:RIG)を記録材料として用いています。このBi:RIG膜は数10nm程度の粒径を持つ多結晶膜で、この一つ一つの結晶粒が磁気的な情報を持ち干渉縞を作るので、磁気ホログラムの記録に必要なサブミクロンの大きさの干渉縞も形成できます。
上述のように、磁気ホログラムによる記録・再生には成功していましたが、当初はノイズが多く、像が暗いなどの課題がありました。像の暗さについては、人工磁気格子の一種である磁性フォトニック結晶構造や多層膜構造を記録メディアに導入することで、 明るい再生像が得られることを、数値シミュレーションおよび実験で示してきました。また、記録条件を工夫することで、48x48 pixelのデータをエラー無く記録・再生することもできるようになり、更に96x96 pixelのデータでも小さなエラー率で記録再生できることを示し、磁気ホログラムがメモリとしてのポテンシャルを有することを示すことができました。
現在は磁気ホログラムメモリ実現のために必要な、
を進めています。