近年、情報通信技術は飛躍的に発展し、スーパーハイビジョン(4K, 8K)をはじめ、IoTなど膨大なデータを扱う技術が普及しはじめており、これらの膨大な情報をいかに安価に保存し活用するかが重要となってきています。そのため既存の記録媒体に対する大容量化も活発に進められている一方で、新しい技術による記録媒体の高性能化を図る研究も進められています。
ホログラフィックメモリは、光の干渉を利用してデータを記録する光ディスクで、一般的なBlu-rayディスクの50倍以上の記憶容量が期待されています。我々の研究室では、材料的に安定な酸化物の磁性体を記録材料とした、磁気ホログラムメモリの研究・開発を進めています。
光情報処理や光通信技術の飛躍的な発展に伴い、空間光の強度、位相を二次元配列ピクセルとして制御する空間光変調器 (Spatial Light Modulator: SLM) の高速化が求められています。我々のグループでは、垂直磁化膜の磁化反転速度が極めて速いことに着目し、単結晶磁性ガーネット(Bi:RIG)膜の磁化を電流で制御した磁気光学空間光変調器 (Magneto-optic SLM: MOSLM) で、10 ns/pixelに達する世界最高速の超高速光変調を実証しましたが、消費電力が大きく実用化には至りませんでした。
そこで圧電効果を介して、電圧でBi:RIGの磁化反転を高速に行うマルチフェロイック(Multiferroic: MF)複合膜を用いた、電圧駆動の超低消費電力超高速MOSLMを実現しようと研究を進めています。
フォノン(Phonon)とは、結晶中の原子の振動を量子化した準粒子で、フォノンの持つエネルギーは格子の熱振動のエネルギーになります。近年、フォノンエンジニアリングとして光の干渉を利用するフォトニック結晶のアナロジーから、フォノンの波としての性質を利用し、ナノスケールの周期構造体(フォノニック結晶)を用いてフォノン(熱)の干渉により、熱の伝搬を抑制するフォノニックバンドギャップの形成などが試みられ、ナノスケールの構造制御による熱伝導制御(熱伝導の抑制)が提唱されています。
一方、スピンゼーベック(Spin Seebeck)効果は、上図のように強磁性体に金属などの導電体を付けたスピンゼーベック素子に温度差(ΔT)を与えることにより、強磁性体に接した導電体にスピンの流れであるスピン流(Js)が生じる現象で、このスピン流を逆スピンホール効果を用いで電気信号に変換して検知することができます。
このフォノニック結晶を模した周期構造体とスピンゼーベック素子を組み合わせることで、任意のフォノン周波数においてフォノン(熱)を制御することでスピンの流れを制御する全く新しい人工磁気格子(Phonon-Artificial Magnetic Lattice: P-AML, 磁性フォノニック結晶)の実現して、フォノンによるスピン流制御とそれによるスピンゼーベック素子の出力変調・制御を行うために研究を進めています。