スピン・エレクトロニクスグループ
マグノニクス

ナノ構造磁性材料や磁気現象などのスピン工学分野を中核にして、光や高周波電磁界、超音波や熱、電子伝導などとの協調現象を巧みに利用した基礎から応用にわたる研究を行っています。

磁気光学Qスイッチレーザー

概要

豊橋術科学大学のスピン・エレクトロニクス グループ,アイオワ州立大学,分子科学研究所の研究者らは,共同で磁場と光の相互作用である磁気光学効果を発現する膜を用いた,集積化可能なQスイッチレーザーの開発を世界で初めて成功しました。本成果は小型高出力レーザーの発展に寄与するものです。

数十ワットのレーザー尖頭値,40ナノ秒のパルス幅を,ドメイン制御型の磁気光学Qスイッチで実証

はじめに

高出力,高繰り返し,高安定な小型レーザーは,日々の製造プロセスを,よりシンプルで,低コスト,スピーディーなものに変えうると期待されています。ドイツでは,製造現場のデジタル化(高度情報化)がもたらす製造業の変革をインダストリー4.0と名付けられ,全工程の制御自動化が一つのキーポイントとなってきており,レーザー加工はこれに大きく寄与すると考えられています。小型高出力レーザーの適用先は,これにとどまらず,自動車エンジンの点火プラグや,宇宙開発用スラスターシステムでの利用など多岐に渡ります。

しかし,これまで,レーザーが出るタイミングや,繰り返し回数などが,制御可能で集積化可能な固体レーザー向けのQスイッチ素子は無く,開発が切望されていました。制御可能なQスイッチ素子は,電気光学素子や音響光学素子が広く知られていましたが,光学素子の付属が必要であったり,分厚い結晶を用いる必要があったりと,原理的にmm以下の小型化が不可能でした。更にどちらも複雑かつ大型の制御電源が必須であり,小型レーザー本体のコンセプトにそぐわないものでした。

これまでの研究成果

豊橋術科学大学電気・電子情報工学系の後藤太一助教らが所属するスピン・エレクトロニクス グループ,分子科学研究所,アイオワ州立大学の研究者らのグループは、迷路状の磁気ドメインをもつ厚さ190マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の透明磁性材料を用いて,初めて,膜のQスイッチの開発に成功しました。

磁気ドメインとは,磁石のN極とS極が膜の面の中に,ランダムに点在することによって生じるもので,磁気のまだら模様と言い表すことができます。実験では,高速磁気パルスを,透明磁石材料に印加し,パルス幅45ナノ秒(ナノは10億分の1),ピーク値約20ワットの,Qスイッチレーザーの取得に成功しました。世界で初めての,集積化可能な磁石材料を使った初めてのQスイッチレーザーの結果報告です。

さらに磁性体の強みを活かし,小型永久磁石を,透明磁石材料の近くに設置することで,レーザーパルス発生に必要な電流を,7分の1にまで,低減できることを実験によって示し,チップに収まる程度の小型の制御回路で,同機能が実現できることも示しました。

磁場制御によって制御される迷路状磁気ドメインと透過光の変化の様子。磁場を印加することで,大きく,かつ,急峻なレーザーパワーの変化を実現できる。

これからの研究

今後は,実際に,本素子の集積化を行うとともに,出力パワーの増大と,材料開発を基本とする磁気ドメインのダイナミック制御を行うことで,本デバイスを用いたレーザーシステムの開発に研究の場を広げる考えです。本成果は,磁気と光を融合しこれまでにない価値を見出したことから,小型高出力レーザーの発展に大きく寄与することが期待されます。

磁気光学Qスイッチレーザーを操作する研究者等の様子。左:森本凌平 博士後期課程生,右:後藤太一助教

関連する発行済論文

Taichi Goto, Ryohei Morimoto, John W. Pritchard, Mani Mina, Hiroyuki Takagi, Yuichi Nakamura, Pang Boey Lim, Takunori Taira and Mitsuteru Inoue, "Magneto-optical Q-switching using magnetic garnet film with micromagnetic domains", Opt. Express, 24, 17635-17643 (2016/08/08).
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